研究室の概要
当研究室は、福井市内文京キャンパスに存在する国立大学法人福井大学・工学部・電気電子情報工学科に所属し、教員スタッフ、大学院生および卒業研究生からなります。研究の内容は、赤外から紫外まで10兆分の1秒のパルス光を任意の波長で発生できるレーザー分光学評価装置を開発し、光を磁性体材料・光エネルギー変換材料・ワイドギャップ半導体などに当てて、ダイナミクスが発生するまでの電子の運動を詳しく観察しております。この現象をレーザーを組み合わせた新技術でさらに詳しく研究する準備を進めています。
研究テーマ
省エネルギーデバイスの開発に向けて:強磁性半導体EuOのスピントロニクス過渡応答
キャリア注入誘起のキュリー温度増加など興味深い磁性を有する強磁性半導体であるEuO薄膜における時間分解磁気光学効果についてf→d遷移に対応する光エネルギーを選び探査している。面直磁場印加下で磁化のフェムト秒レーザー照射による過渡的な変化を偏光回転法により評価し、光生成キャリアの媒介効果に伴う交換相互作用の強化による磁化増大が観測された。この結果は、キュリー温度付近でのみ支配的だと信じられてきた交換相互作用が超高速時間領域では低温域でも磁化を増大しうることを示唆する。また、円偏光照射による磁化歳差運動制御に成功し、左回り円偏光照射時には歳差運動が消失し、逆に右回り円偏光にすると増強するような磁場が存在することが分かった。光の角運動量によるフェムト秒時間スケールでの非熱的な歳差運動制御は光誘起磁化増大効果と円偏光方向に対する奇の依存性を持つ逆ファラデー効果との組み合わせにより実現されるという実用上も有益な知見を得ている。
超短パルスレーザーを用いた動的光物性の解明
種々の凝縮系における動的な光物性を超高速現象を刻々と直接観測することを可能とする超短パルスレーザー分光法を用いて探査している。時間分解発光分光法によるZnO超格子ベース量子効果デバイスにおける励起子局在化の解明のほか、酸化物モット絶縁体における全光動作スイッチの応用を見据えた過渡的光非線形性の解明、デラフォサイトCuScO2薄膜の超高速励起子ダイナミクスの解明に取り組み、その知見を集積した。特に、ZnO超格子ベース量子効果デバイスおよびCuScO2薄膜に関する研究はAmerican Institute of Physicsの刊行するウェブジャーナルであるVirtual Journal of Nanoscale Science & Technologyに採択され、世界的な注目を集めている。
創エネルギー材料(光電変換材料)に関する研究
再生可能エネルギーのキーデバイスとして色素増感太陽電池・強相関電子系材料・トポロジカル絶縁体など新材料に基づいた太陽電池が注目されている。化学合成技術の発展により通常の元素金属に比べても遜色のない導電性をもつ有機電子材料が得られるようになってきたことも研究の進展を加速化している。導電性高分子と酸化物からなる光センサーにおいて理論的な限界に近い光電変換効率を得たという実績を踏まえ、種々の新光電変換材料界面での重要な鍵を握る「界面分極層」の電子構造と電荷分離・電荷輸送・電荷収集といった素過程との関係性を最先端のレーザー分光法によって正確に理解しようとしている。また光吸収による励起子生成・拡散といったエネルギー伝達機構も解明しようとしている。このような界面電子構造の解明を通じて光センサーや太陽電池の高効率な光電変換特性につながる設計指針の樹立を目指している。
ZnO(酸化亜鉛)の受光素子応用に関する研究
ZnO(酸化亜鉛)を礎とした紫外線光センサーへの応用に関わる研究にも取組み、導電性高分子(PEDOT:PSS)との有機無機複合材料における光電特性を解明した。それにより100%近くの光電変換効率を達成した。本研究成果は、高効率紫外線光センサーの萌芽研究として着目され日刊工業新聞等に掲載された。ZnO紫外線光センサーの研究は共同研究へと発展している。